講演 狭山市富士見小学校
初めての講演

「いのちの授業」

狭山市 富士見小学校6年生へ


僕はShinと言います。僕には中学校2年生と小学校4年生の息子がいます。ですから、皆さんのお父さんやお母さんと、だいたい同じくらいの年齢だと思います。
これから、僕が罹ってしまった病気の「白血病」と、病気を治すための「骨髄移植」のお話と、僕の体験談をお話します。

みなさんは「白血病」という病気を聞いたことがありますか?漢字では、色の「白」と血液の「血」と病気の「病」と書いて「白血病」です。つまり血が白くなっているように見える病気なんです。
普通「血」は赤いですよね?それは「赤血球」と呼ばれる血液の色です。僕の病気は「血の中のガン」がどんどん、どんどん増えていく病気、それが「白血病」です。

皆さんは「胃がん」や「肺がん」という病気を聞いたことがありますか?それは「胃」や「肺」に出来る、固まった形のガンです。
多くは手術で取ることが出来るガンです。しかし、白血病は「血液」のガンですので塊ではありません。体の中をグルグル回っている「血」の中にある、塊ではない「ガン」なので、手術で取ることはできません。

血液は体中をグルグル回っているので、あっという間に悪いガンは体中に広がって、放っておくと、すぐに死んでしまいます。
そこで、「白血病」とお医者さんから言われたら、すぐに入院して、すぐに悪い「ガン」をやっつけるお薬をすぐに点滴しなければなりません。でも、そのお薬では体中に駆け巡っている血液の中の悪い「ガン」を全部殺してしまうことがなかなか出来ません。どこかに少しでも残っていると、またそれが増えてしまうからなのです。

そこで、血液のガンである「白血病」には「骨髄移植」という元気になれる方法があります。皆さんの中で「骨髄移植」って聞いたことのある人はいますか?

人間の血はどこで造られるか知っていますか?小さな赤ちゃんの頃は身体のいろんなところで血液は造られるのですが、大きくなると大きな骨の中、足の太ももの骨や腰の骨の中の「骨髄」と呼ばれる部分で造られているのです。

皆さんにも「骨」ありますよね?触ってみてください。
その骨の中はスポンジみたいになっているんですよ!知っていますか?そこが「骨髄」といって血が造られるところなんです。

白血病になってしまった人は、その骨髄で造られる血液がガンになっているので、その悪い血液のガンを造る骨髄を放射線と強いお薬で壊してしまい、元気な人の骨髄をもらって、健康な血液が造られるようにすることが「骨髄移植」なのです。

でも、「元気な人であれば誰でも良いか?」と言うとそうではありません。
皆さんは自分の血液型を知っていますか?名札の裏に書いてありますか?O型、A型、B型、AB型とありますね、それは赤血球の血液型なんです。でも血液にはそのほかにもうひとつ、白血球の血液型があるんです。検査をしなければ分からない、数字がたくさん並んだ複雑な血液型なんです。
「骨髄移植」をするためには、その、もうひとつの白血球の血液型が同じじゃないとできないのです。

死んでしまうかもしれない「白血病」になってしまった人達は、「骨髄移植」をして助かりたいから、白血球の型が自分と同じで元気な人を探します。それは兄弟で見つかることが多いのですが、兄弟がいても合わない人もいるし、兄弟がいない、一人っ子の人もいますよね。では、そういう見つからない人はどうすれば良いのでしょうか?

そのために出来たのが「骨髄バンク」です!皆さんは「骨髄バンク」って聞いたことがありますか?

白血病などの病気で困っている人に、元気な優しい人達が「助けてあげるよ!」と登録をしているのです。そこで同じ血液型の元気な人が見つかって、その人の骨髄を頂くことができて元気になった患者さんはたくさんいて、みんなとても喜んでいます。そして、元気でやさしい骨髄をくれた人にとっても感謝しています。骨髄バンクには20歳になったら登録ができます。大きくなったら、皆さんも「骨髄バンク」のことを勉強してくださいね。


さて、今度は僕の話をします。
去年の9月、突然、鼻血がでました。いつもならすぐに止まるのに、なかなか止まらなくて、「おかしいなぁ〜?」と思って、次の日に病院へ行きました。
お医者さんは僕の身体から血を採って血液検査をしたら「白血病」になっていることが分かりました。もう、僕は家へ帰ることは出来なくて「そのまま大きな病院へ行ってください」と言われました。
僕の罹ってしまった白血病という病気はとっても怖い病気で「すぐに強いお薬を点滴しないと死んでしまうよ」と言われた時はビックリしました。そして、怖くて足がガクガクしてしまいました。

ガンの治療のお薬はとても強い薬で髪の毛が抜けてしまったり。頭がスゴーク痛くなったり、気持ちが悪くなったり、皮膚が真っ赤になったり、高熱が出たりして、何度も「もう死んじゃうのかな?」と思いました。
でもすぐに「僕は生きたい!かわいい子供達を残して、今、死ぬ訳には行かないんだ!」と病気と闘う勇気を奮い立たせました。

僕はいろんな、たくさんの検査をしました。たくさんの注射もしました。でも僕の病気は同じ病気の人が10人いたら1人くらいしか助からない、たちの悪い白血病だから「骨髄移植しか助かる方法はない」と言われました。

僕の家族は泣きました。「お父さんが死んじゃうかも知れない」と子供達も泣きました。でも、泣いていても仕方ない。僕は「骨髄移植して、絶対に生きるんだ!」と信じました。
僕にはお姉さんが一人いますが、その姉とは6個合わなくてはならない白血球の血液型が2個違っていました。1個違いならどうにか骨髄移植ができるけれど2個違うと難しいと言われてしまい、がっかりしました。
僕は「骨髄バンク」に「元気な骨髄をくれる人を探してほしい!」とお願いをしました。でも、残念ながら見つけることはできませんでした。
アメリカの骨髄バンクにも探してもらいましたが、やっぱり見つかりませんでした。

でも、諦められません。僕は死にたくないのです!そこで僕は、血液型のピッタリ合っていないお姉さんとの骨髄移植をしてくれる病院を見つけました。東京大学病院です。そこではアメリカではやったことがあるけれど、日本ではやったことが無い移植が出来ると言われました。でも、僕と同じ病気で助かった人は一人もいませんでした。だけど、骨髄をくれる人が見つからないので仕方ありません。誰もやったことの無い治療をするのは勇気がいることでした。
でも、僕がこの方法で助かれば、多くの患者さんたちが希望を持つことができる・・・。「生きられるかもしれない」と思えることが病気の人にとってどれだけ大きな希望になるかを、僕は死ぬかも知れない病気「白血病」になって初めて知りました。

僕のお姉さんは血液を造る骨髄から「造血幹細胞」という血液の赤ちゃん細胞を採る為に一週間入院しました。そして今年の2月19日に、そのお姉さんの細胞を僕に輸血する骨髄移植をしました。

僕はA型でしたが、今は僕のお姉さんと同じO型に変わりました。今、僕の身体の中で造られている血液は僕のお姉さんの血液とまったくおんなじ血液が造られています。
お姉さんは女ですから、今の僕は検査で調べると「女の人」と言う結果が出ます。(笑)血液で男か女かも分かるんですよ!

僕の身体に入ってきた、僕のお姉さんの骨髄の元気な血液は「あれ?おかしいな?ここは私たちの身体じゃないわ〜!」と僕の身体の中で暴れます。でも、どんどん、どんどんお姉さん骨髄の血液が僕の中で元気よく増えていきます。そして、もともとの僕の血液とケンカを始めます。「あっち行け!」「お前こそあっち行け!」とか「ガンは敵だ!」とか言って、きっとケンカしてたんだと思います。僕のお姉さんから来た元気な骨髄で造られた新しい血液は悪いガンと闘う正義の味方です。僕の身体に残っているガンの血液は悪者で、しばらくの間戦い続けます。

悪者はガンを武器に闘います。正義の味方のお姉さん血液は元気に力強くがんばります。その間、僕はとっても苦しい思いをします。身体の中で戦争が起きているようなものですから。ご飯はまったく食べられません、お水を飲むことものどが痛くて出来ません。高い熱を出したり、顔がはれたり、口の中もただれて開かなくなって、身体中痛くて痛くて「このまま死んでしまうのじゃないか」と何度も何度も思いました。でも「もう少しだ!がんばれ〜!」と自分を励まし、どうか、元気な新しい血液が悪いガンの血を全滅させてほしいと祈りました。その時、僕はお医者さんや看護婦さんもなかなか入って来れない無菌室と言う部屋に入って寝ていました。

僕の家族は大きなガラス窓から僕の寝てる様子を見て、会話は電話器でするのですが、身体中が痛くてうまく話が出来なくて、そんな僕を見て僕のお母さんやお父さんは泣いていました。子供達も「パパ頑張って!」と電話で言ってくれたけれど、話が出来ない時もありました。

そうして僕の身体の中でお姉さんからもらった新しい元気な血液が、僕のガンになった悪い血液を全部やっつけてくれました。

おかげで僕は少しずつ元気になって来ています。でも、僕の身体の骨髄からガンの血液を造れないようにするために、とっても強いお薬を使ったので、まだまだ病院へは通わなければなりません。だけど僕はがんばります!新しい命をもらったのだから。

僕が入院していた病院にも小学生の子供達がたくさん入院していました。みんな「生きさせて!」と神様にお願いしています。でも、残念なことに天国へ逝ってしまう子供達はたくさんいます。

今日、皆さんへ僕が伝えたかったのは「生きたくても生きられない人が大勢いるんだ」って事です。皆さんは元気に学校へ来て勉強して、給食を食べて、クラブ活動をして、お友達とあそんで、それは楽しいことばかりじゃないかもしれないけれど「健康」ですよね。
でも、世の中には、どんなに学校へ行きたくても病気で行けない子供もいる。お友達と遊びたくても遊べない子供もいる。
病院の窓から「いいなぁ〜」と皆さんを羨ましそうに見ている病気の子供達がいっぱいいるのです。
そして「もっと、もっと生きていたい」と、どんなに思っても病気で死んでしまう子供達がいることを忘れないでほしいと思います。

そして、どんなに小さなことでもいいから、誰かの為に役に立つことをやってほしいなぁ〜と思います。
僕は病気になってから「生きてるっていいなぁ〜」ってすごく思います。「勉強なんて嫌だな〜」って思うのも、生きているからなんですよね。
皆さんが病気になったりして困った時、きっと誰かが助けてくれます。だから、皆さんも困っている人がいたら、手を差し伸べてください。優しい気持ちで助けてあげてください。そして、「命」を大切にして下さい。自分の「命」も、人の「命」も。
お母さんとお父さんから貰った「大切な命」ですから…。

これで、僕の話を終わります。静かに聞いて下さってありがとうございました。

  

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