主治医の○田先生は明日からミニ移植のワークショップがあるらしく、海外出張に行かれるそうだ。移植担当医師は坂○先生と中○先生の美女二人の先生に移植をして頂く。 しかし、移植って言っても、輸血と同じように輸注するだけなんだよね。 零下200度以上で保存された姉貴の造血幹細胞が945cc移植(輸注)されるらしい。採取した時は500ccくらいだったのに、なぜ、こんなに増えているのか不思議だったので聞いてみたら、保存する為の薬が入っていると。 1時から始めて5時間くらいかけて輸注すると言われた。 無菌室の面会時間は3時〜4時までの1時間と6時〜7時までの1時間で1日2時間と決められているが移植の日はもう1時間延長できると聞いた。面会は3時間かぁ、と思っていた。 大きな金属性の重そうなバケツを小さな中○先生が「よいしょ、よいしょ」と持ってきた。冷凍していた幹細胞(骨髄)を37℃に解凍するお湯(?)が入っている機械のようなものも部屋に運ばれた。 ガラス越しの面会には両親はじめギャラリーは多い。(両親、カミサンと従兄と従姉と姉貴と・・・いっぱい居る) 看護婦さんに写真を撮ってもらう。記念、記念・・・。 テーブルに紙の大きなシートを広げ用意が進む。厳粛な雰囲気が妙に照れくさい。 父が誰かを手招きした。おお、辰ちゃん夫妻だ!見守ってくれている。 次は君の番だよ、俺のを見て参考にしてね。(なんの参考か???) 最初の50ccの輸注が始まった。解凍された赤い幹細胞の血液(?)の袋にはドナー欄に姉の名前が記載されている。レシピエントには俺の名前。写真を撮る。 いよいよ姉貴の造血幹細胞が入っていく。 母は泣いている。みんなが心配そうな顔して見ている。従兄の俊兄はいつもの笑顔で「がんばれ!」と言ってくれている。みんな、ずっと見ている・・・。 日本の骨髄バンクを創設した姉の友人(酒飲み友達?)の貴ちゃんがメールで「気」を送ってくれた。「バオー!バフォー!ブヒョー!!お誕生日オメデトー!」と、スッゲー「気」をありがとう。 俺も元気になって貴ちゃんみたいに酒飲むぞ〜!(違うか?) 貴ちゃんは移植して15年、すごくパワフルな先輩だ。続かねば。 途中で胸が苦しくなる。心電図で異常なサイン?主治医の説明は心筋梗塞の症状だって? 驚かすなよーー。輸注のスピードを落とす。ほとんど落ちてるのか落ちてないのか分からないくらいのスピードだ。これじゃ、幹細胞が腐っちゃうよ、生ものなんだからさ。でも、胸が苦しくなると怖いし。 20秒に一滴くらいの速さ。これじゃ、終わんねーよ。2時、3時と時計は進み、時間は過ぎる。 いつまでも居てもいいの?面会は3時間しかダメなんじゃないの?それにしても図々しい家族だ、姉貴を筆頭に。その姉貴の細胞が俺の身体に入ってるわけだから、(染色体も女性になってしまうし・・・) オイオイ、心筋梗塞を起こしているのも、この姉貴の細胞かい? 勘弁してくれよ!おとなしくしてくれよ・・・。暴れるなよ! 姉貴のイキの良い幹細胞が、俺の身体のいろんな臓器達に挨拶しに血管内を駆け巡っている感じがする。身体の中での変化が分かる。不思議な気分だ。仲良くしてやってよ・・・。 4時。まだ面会のギャラリー達は昼食も食べに行かない。輸注は相変わらず遅い・・・。やっと両親達が15階のレストランへ行ったらしい。ビールでも飲んでるんだろうか?(しかし、アルコールが病院のレストラン内で飲めるのも珍しいよね?) 姉貴ひとりが残る。「あんたの細胞、結構ハードだよ。」と言う。「いらないなら、返してくれてもいいんだけど・・・」と言われる。返せないよね、もう。 だんだん調子が良くなってきた。このまま行けるぞ! もう少し。 ゲップが出る。ゲップの時に保存液がガス化して口から出ると聞いていた。生臭い匂いだと聞いていた(主治医の○田先生は「魚が腐った匂い」って言ってた)けれど、俺は・・・俺の口から出る匂いはワインのアルコールの匂いのような感じ。ふう〜ん、まぁ、人それぞれだからね。 看護婦さんもいろんな機械の数値を丁寧に見ててくれている。後どのくらい掛かるんだろう。 先生も休憩かな?なんだか静かになった。どうやってこの造血幹細胞は俺の骨髄へ辿り着くのだろうか?不思議だ。自分の事なんだけど。 終わりに近づいている。もう後少しだ、頑張れ俺の身体。頑張れ細胞軍団! GVHDはどんなふうになるんだろうか?放射線の副作用は?口内炎は?足の皮膚も健康サンダルのボツボツが痛いくらいになるらしい。 この先の不安と「自分だけは大丈夫だ」と思う気持ちと、心がグチャグチャになる。
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