大きなガラス窓。分厚いガラス窓だ。この窓越しの面会になるのか…。 枕元には面会用のインターフォンがある。テレビ、ラジカセ、ビデオデッキもある。 洗面台にイソジンのうがい薬がボトルで置いてある。名前まで付いてる。一日にこれ一本使わなくてはならないんだそうだ。ヒェエエ〜、そんなにうがいするの? 姉貴が子供達と家族、友人と写した写真をフォトフレームに入れて無菌室へ入れてくれたので飾る。同じフレームの写真を子供達は自宅の部屋に飾っていると言う。 食べられないかも知れないけれど、お菓子やジュース類、カップヌードルをたくさん差し入れてもらう。食べられないくせに、食べ物があると、妙に安心なのだ。 無菌室の面会時間は限られていて1日2時間だけだって。暇だぁ〜、暇だぁ〜、暇すぎる! パソコンでDVDを見る。つまらん。看護婦さんとふざけてみる。つまらん。そう言っていたのも束の間だった。 |
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記憶がなくなればいい。 ふと気が付いたら、半年経ってて、夏になってるとか・・・。 そんなこと・・・無いか。 |
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姉貴の造血幹細胞が俺の身体で運動会をしているみたいだ。バタバタ駆け巡っている。俺の骨髄と仲良くしてほしい気持ちと、体内に残っている俺の幹細胞が姉貴の幹細胞に負けてほしい気持ち。頭の中が混乱していて、考えがバラバラ。ひとつのことを考えられない。動悸がする。姉貴の造血幹細胞が勝ち誇ったと万歳三唱をしてるのかも?明日からMTXが入る。しんどくなるんだろうなぁ〜。それにしても空腹感だけはある。 気分が良かったので「にゅう麺が食べたい」などとメールをしてみるが、途端に吐いてしまった。身体が言うことを聞かない。頭が痛くなる。移植の最中も頭痛がした。冷凍保存された幹細胞が俺の体内で多くの酸素を吸収し、ひとつひとつの細胞がふくらむため、一時的に酸素濃度が異常をきたし血圧が上昇、脳圧(?)が高くなり、頭痛がしたらしい。熱は無いが頭痛は辛い。でも、痛み止めをくれない!「臓器に負担を掛けるので・・・」って先生が言うから我慢する。「ピリナジン(鎮痛剤)がほしい〜!」と叫ぶ。 時間が早く過ぎてほしい・・・。声も出ない。眠れないので「眠剤」を出してもらうが、トイレに起きれなかったらヤバイから飲むのを躊躇する。でも、飲んでしまう。海老のように丸くなって横たわるしかない。辛い・・・。身体をどうやっても、何しても、どっち向いても、痛いし、きつい。 数日、波のある日が続く。気分のいい時はメッチャ爽快。姉貴が差し入れしてくれた本なんか読んでみる。(無菌室で読書をした患者は初めてだと先生方が代わる代わる俺を見に来た。普段、読書なんてあんまりしないけれど、結構面白かった。読み終わった後、先生へ貸し出した。) でも、気分が悪い日は最悪。何も出来ない。話も出来ない。ただ、吐くだけ。 気分のいい日は笑い転げて話しをする。こんなに笑っていいのか?と思うほど。生きてるって思う。NK細胞が増えてくれればいいんだよね。でも、血小板1万しかないから、調子に乗ってぶつけたりしないように気をつけるよう注意される。輸血ばっかし。MAP輸血は気持ちが悪くなるからカバーをしてもらう。寝てる間にしてもらいたいけれど、もしも、何かのアクシデントがあった時に困るから、日中に終えるようにお願いした。することが無いから、ついついぶら下げられた輸血の袋に目線が行ってしまう。 GVHDかな?湿疹が出た。おう、GVHD!いよいよ来たかなぁ〜、俺は、そんじゃそこらの白血病患者じゃないぞ! でも、具合の悪い日には弱気になる…。いかん!いかん!こんなんじゃ、闘えん。 最悪の日 顔が歪んだ。頬から喉元まで腫れて、痛いどころの騒ぎじゃない!痛すぎる。 モルヒネが入る。CRP(炎症反応)が高いので強めの抗生物質を点滴に入れてもらう。 CRPは昨日から高くなってきていたので「やっぱり・・・」と言う感じ。この血算って数字はすごいよ。(余談だけど、入院してから自分の白血球数がだいたい分かるようになった。パソコンで白血球数・赤血球数・血小板数やヘモグロビン・炎症反応・肝臓・腎臓の目安となる数値をエクセルの表に入力してるんだけど、採血の結果が出る前に予想をすると、ほとんど当ってるんだよ、これが。) 話も出来ない。父が昨日、面会に来た時は調子良くていろいろ話をしたんだけど、今日は身体中痛くて最悪だったから母が見舞いに来たけど何も話せなかった。ゴメン。。。 主治医の○田先生が「今のような状態が一週間ほど続くと思う」と言ったので、「ラクになるなら何でもしてほしい」と懇願する。 吐き気、吐き気、吐き気・・・。丸くなって吐き続ける。食べてないから胃液しか出ない。喉から胃に掛けて痛みは増す。 お腹がすくけど、食べられない。お臍のあたりに蓋があったらいいのに・・・と真剣に思う。 パカッと蓋を開けて、好きなものをポンポン入れて閉めておくと空腹感からは解放されるのにね。 お〜、茄子のように顔が腫れて歪む。俺の顔、変形している。アイスノンで冷やすけれどダメ。 冷えピタを顔中に貼る。笑われるけど、仕方ないんだ、痛いし・・・。 口内炎の口の中は真っ白でボアボア(分かるかなぁ〜?綿菓子を口の中に詰め込んだみたいになってる)もちろんウガイなんか出来ない!口が開かないよ〜、こんな状態で。身体中の粘膜は全て、口からお尻まで、この口の中の状態と同じになってるのか?ボアボアの食道?ボアボアの腸?ボアボアの内臓??? 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。いたぁ〜い。 泣きたくなる。 モルヒネは常時、一定量が身体には入るようになってるが、痛みが強いときは手元のボタンを押すように言われている。瞬時にモルヒネが大量に体内へ入る仕組みになっているそうだ。 ボタンを押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。押す。 朦朧としてる。 白血球は0が続く。お見舞いに来てくれた人のことも、覚えてるような覚えてないような・・・。夢の中の出来事だったような気もするし・・・。わかんない日が続く。 後で聞いた話だが、結構サービス精神旺盛で面会に来てくれた親戚とは話しをしていたそうである。でも、記憶が曖昧なんです。すみません・・・。長崎から来てくれた東陽兄ちゃん、遠いところ来てくれて、ありがとう。でも、あんまり覚えてないんだ・・・。 『こんなにモルヒネを入れても大丈夫なのか?』 ○田先生は「大丈夫っ!」って。いやにハッキリ言ってくれる。でも、いつまでたっても、白血球は0。生きているのがおかしい。
辰ちゃんが見舞いに来てくれた。不安そうに見てる。少し辛いけど、辛い顔したら、辰ちゃんが不安になるから、元気な振りをする。こんな思いを辰ちゃんもするのかなぁ〜。かわいそうだ、俺だけでいいのに。 遠路遥々Cちゃんが見舞いに来てくれた。Cちゃんも同じALL(L2)。彼女は移植せずに化学治療で切り抜ける方針だ。(再発したらオールマッチの弟さんがドナーになるって決まってるんだけどね)フィラデルフィア染色体の異常が無いから、維持療法で乗り切ってほしいよ。今回の上京は『未受精卵子保存』のためで、姉貴が一緒に病院へ行って来たらしい。茶髪のボブのカツラ、よく似合ってるじゃん!それにしても、よく笑うやっちゃなぁ〜。貴ちゃんも来てくれた。相変わらず元気や。みんな元気で明るい。よしよし、俺もすぐに仲間入りするからねーーー♪ 同級生も来てくれた。小学校の頃から悪ガキ仲間だった。みんなそれぞれ仕事も大変らしい。「ゴールデンウィークにはキャンプに行くぞ!」と言うから、「エエーッ、せめて民宿に泊まろうぜ。」と言った。毎年必ず同級生の数家族で海へ山へと出かけているから、早く病気を治さなくては計画が立てられなくて困ると文句を言われた。みんな優しいヤツだ。ちっとも信心深く無いくせに「お寺で願掛けてもらってきた」って数珠のブレス(数珠だと腕輪って言うのかな?)を持ってきてくれたり、雑誌、DVD、CD・・・、俺が退屈しないようにって来てくれた。thank you ! 週末は我が子(太郎&次郎)が面会に来てくれた。カミサンが一人で仕事も子供達のことも頑張ってくれている。しかし、さすが俺の子、じっとしていられない。まるで猿のように無菌室の廊下の椅子や棚に乗ったり、走り回る。「パパ…」というインターフォンからの息子の声に胸が詰まる。この子達のためにも頑張らねば! 従姉の詳子ちゃんも何度となく横浜から来てくれている。無菌室に入る前、母と同時期に携帯メールを始めたらしいく、母と二人で“見舞い”に来てくれてるのに、二人とも下向いてメールばっかりしているから「あなたたち、いったい何しに来てるの…?」って言って笑ったことがある。まったく…でも、老眼だから仕方ないか。それにしても見舞い客が途絶えることなく来てくれて嬉しいよ。
生着したんだから耐えるぞぉ。モルヒネも取ってもらったし。下痢が始まるらしいがそれはGVHDの症状とのこと。喜ばしいことだ!こうなったら、何でもござれ。 25日目。白血球数3200。すばらしいーーー!粘膜障害はまだまだひどいが、個室へ移れるとの知らせ。「やったぁ〜、バンザイ!」(パチパチパチ・・・♪) 感染症が怖いけれど、免疫を高めて乗り切るぞぉ。でも、サイトメガロウイルスが見つかる(ヤバッ) こうして無菌室から脱出成功!懐かしいなぁ〜無菌室生活、なんちゃって! アハッ。
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